仲田智
色を重ね、時を重ねて
益子から車で30分の旧御前山村。里山の中腹に自宅兼アトリエを構えて10年が過ぎた。
周囲に気兼ねすることなく工具が使え素材や作品を存分に置ける環境を求めて、
相模原から、この里山の雑木林へ移住を決めたのが1999年。
まず、鉄骨の倉庫を業者に建ててもらい、あとは電気も水も無い状態から
自分ですべてをつくってきた。寝袋で寝泊りして、焚き火をし、飯盒でご飯を炊き、
壁や床、窓をつくり、そして、それまでと変わらず作品もつくり続けてきた。
半年後に電気がひかれ、2年半後にやっと井戸水を利用した水道が完成した。
11年目の今、アトリエの横には、NAKATA’S KICHEN HOUSEとして、よく雑誌にも
取り上げられる台所小屋、そしてまだまだ製作途上の倉庫兼作業場の2棟が並ぶ。
鉄を素材として使うとき、スプレーで錆を出すことはしない。
鉄板に色を塗って戸外に置き、太陽や雨風にさらして、数年待つ。
ゆったりと流れる時の中で出てくる風合いが、いいなと思う。
そのディティールを大切にしたい。だから、何年でも待てる。
ドローイングも、描きたいときに描きたいところだけ色を重ね、じっくりと育てていく。
素材を仕込み、育ったら収穫して鉄を使う作品をつくり、
収穫できない時は、紙を使ったドローイングなどの作品をつくる。
自称、御前山の二毛作アーティスト。
作家が、どういう環境で、どういう生き方をしているか・・・、
「人」そのものが、作品にはストレートに表れてくるものだと考えている。
ここでの暮らしの中から生まれてくる作品は、その時々の自分自身でもある。
先日、埼玉から夜行バスで名古屋まで行き展覧会を見たという男の人からメールが届いた。
「理由は自分でもわからないけど、好きだって思いました」
いちばんの褒め言葉として、素直に嬉しく思う。
多摩美で非常勤講師をしていた時の学生達には、こう言われている。
「仲田さん、スーフリですね」
スーパー自由人。
作為や効率といったものから距離をおき、
早く早くと進み続ける「時」の呪縛から自らを解放し、
鮮やかに色を重ね続ける作家の魅力の本質を、
後輩達はしっかりと捉えているようだ。
これからのこと
ヒジノワでは、いろんなジャンルの若い人たちが、
普通のギャラリーではやれないような斬新で面白いことをやってくれるのを期待したい。 土祭の作品づくりでは、多くの人にお世話になったので、
自分にできることがあれば手伝っていきたいと思う。
そして、土祭で初めて土を扱って新鮮に楽しめたので、新しい素材での創作を、
とりあえず「御前山手芸部(部長・私、部員・ゼロ)」として立ち上げ、織物を始めています。